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「どうだ。起きられるか」
「袴はそこですよ。足袋を先きにはくのよ」
「どうぞ」
それから上着を脱ぐと、ワイシャツの袖をまくり上げて、診察にかゝつた。無造作にひよいと病人の瞼をつまみ上げ、めくつて、眼の色を調べた。半裸体のむき出しになつた腕をつかんで静かに屈伸させた。顔面の皮膚をひつ張る、足を立てさせる、今度は足の裏を見る、――それはまさに手慣れた、素速い、注意深い動作だつた。まさしく、医者といふものだつた。
「えらい昔話が又ぶり返したんだな」
「うむ、判る?――ね?」
日々は平凡に単調に過ぎて行つた。
私は時間を忘れているが、ひょッとすると、一二分、又、一二分というように、ねむっているのかも知れない。頭のシンが疲れている時には、頭をシャボンの泡だらけにして、湯につかりながら、後頭部からコメカミへかけて十分も十五分も静かにもむこともある。両耳を抑えて、湯の中へ頭をもぐしこんでシャボンを落して、又、湯の温度に同化してしまう。
「なに、切れてるつて?」
今度はかるく甘えた、羽毛でくすぐるやうな調子があつた。房一はざぶりと水を顔にぶつかけただけで立上つた。
彼は男の顔を蔽つている手拭をとりのけながら云つた。
「それは惜しかつたですな。私などとちがつて学資の心配はなかつたでせうし」
「途中から帰つて来たんだよ」