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房一はむつつりとしたまゝ答へた。
「なに?競馬のこと?」
「はい」
「馬子まごにも衣裳つて云ふから――」と云つたほどである。
練吉はちらりと眺めた。そして、彼のところへ対診を頼みに来た時にも気づいた、あの当惑したやうな小心な表情が今も房一の上に現はれるのを認めた。それはたしかに観物だつた。この男に、こんな気の小さいところがあらうとは!そして、こんなに丸出しにして見せるとは!
「さあね、そいつは今のところ何とも判らんでせうな。何しろこの前に手をつけたのは十年前だつたでせうかね、その時の礦石のかけらも残つちやいませんよ」
「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」
「はあ」
「さあ、くはしいことは判りませんね」
房一はその時、これは思つたより以上に面倒だな、と感じた。この場だけを円めればいゝといふわけにはゆくまい、云ひがかりをつけられるかもしれぬ。それから、徳次をこの場から去らせても後で鬼倉の配下の者に狙はれるかもしれぬ、といふことを突嗟とつさに考へた。彼は腹をきめた。そして、相手の顔に目をつけながらゆつくりと答へた。
その直造の耳には、次のやうな言葉が響いて来た。
「えゝ、まだですが――何か御用?」