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それから幾日もたたないうちに半之丞は急に自殺したのです。そのまた自殺も首を縊くくったとか、喉のどを突いたとか言うのではありません。「か」の字川の瀬の中に板囲いたがこいをした、「独鈷とっこの湯」と言う共同風呂がある、その温泉の石槽いしぶねの中にまる一晩沈んでいた揚句あげく、心臓痲痺しんぞうまひを起して死んだのです。やはり「ふ」の字軒の主人の話によれば、隣となりの煙草屋の上かみさんが一人、当夜かれこれ十二時頃に共同風呂へはいりに行きました。この煙草屋の上さんは血の道か何かだったものですから、宵のうちにもそこへ来ていたのです。半之丞はその時も温泉の中に大きな体を沈めていました。が、今もまだはいっている、これにはふだんまっ昼間ぴるまでも湯巻ゆまき一つになったまま、川の中の石伝いしづたいに風呂へ這はって来る女丈夫じょじょうぶもさすがに驚いたと言うことです。のみならず半之丞は上さんの言葉にうんだともつぶれたとも返事をしない、ただ薄暗い湯気ゆげの中にまっ赤になった顔だけ露あらわしている、それも瞬またたき一つせずにじっと屋根裏の電燈を眺めていたと言うのですから、無気味ぶきみだったのに違いありません。上さんはそのために長湯ながゆも出来ず、々そうそう風呂を出てしまったそうです。
彼は背だけでなく、腕と云ひ胴体と云ひ、又その両脚と云ひどの部分もすべていやに長かつた。その手を差しのべて、房一を座蒲団の上に招じると、自分も対むかひ合つて座を占めた。すると、又もや長い両膝が蒲団の上からはみ出して、房一の方に向いてにゆつと二つ並んだ。
練吉はさういふ今泉の足もとを見、更にじろりと皺一つよらない衣裳を見上げた。何か疳にさはつたやうな色が動いた。そして、一言できゆつと相手をへこまさうとする時のやうに、神経的に口を曲げ、今にも云ひ出さうとした時、少し離れたところから手招きしている房一と小谷とに気づいて、そのままそつちへ行つてしまつた。
徳次は気が抜けたやうに、口のあたりをもごもごさせるきりだつた。
道平は納得したやうにうなづいたが、又ゆつくり身体を坐りなほすのと一緒に、
温泉は街道から幾折れかの石段で溪ぎわまで下りて行かなければならなかった。街道もそこまでは乗合自動車がやって来た。溪もそこまでは――というとすこし比較が可笑おかしくなるが――鮎が上って来た。そしてその乗合自動車のやって来る起点は、ちょうどまたこの溪の下流のK川が半町ほどの幅になって流れているこの半島の入口の温泉地なのだった。
「やあ」
「誰かと思つたよ」
「徳次」だの、「橋本屋」だの、「殺されかゝつてる」、「小倉組」だのいふ言葉がきれぎれに耳に入つた。
「いや、さういふことは人によつてはあるんだよ」